11章 井伊家創設の秘密-2
遠江国守に赴任した藤原共資が村櫛半島南端に志津城を築いた10世紀末──8世紀半ばに制定された墾田永年私財法によって未墾の地を耕せば私有の荘園にすることができたので、寺社や貴族は競って武士団をやとって荘園の増加をはかっていた。この荘園の発達によってちょうど1千万坪になるように土地測量されて制作された遺跡・建比良鳥の地上絵は危機的状況にあった。
建比良鳥の右翼(南部)となる地域は、浜名湖に向って南西へ突き出る村櫛半島の付け根となる。したがって、村櫛半島は建比良鳥の地上絵の範囲外となる。しかし、村櫛半島全域はもちろん各部の地形・地点は、『魏志倭人伝』の記事となる鬼道の学芸の秘密と『古事記』伊耶那岐命と伊耶那美命説話が記載する日本建国史の真相を保存する史料として欠くことができない要所となった。だから、共資は村櫛半島南端に志津城を築いて侵入者の開墾を阻止したのである。
現在にあっても、建比良鳥の地上絵(細江町)全域が田畑に開墾されていない。したがって、10世紀末当時は全域が開墾されていないため、未墾の一角をよそ者が侵入して私有地(荘園)にしたならば、建比良鳥の地上絵の歴史を保存する機能が損なわれて大打撃を受けた。というのも、その歴史の記憶(保存)方法は一部分と全体とが密接に関連しあう組織となっているため、一角が侵入者の荘園になって地名が変えられ史料と定められた地点が失われると、遺跡全体(引佐町・建比良鳥の地上絵=細江町・村櫛半島)に影響し、歴史の真相を残す遺跡として機能不全をおこして役に立たなくなって滅びてしまうようになっていたからである。
共資の先祖・藤原北家の頭首房前(ふささき)の父親は不比等(ふひと)である。この不比等・房前父子は天皇と国家の権力の強大化をはかる律令体制の推進に尽力し、その邪魔となる〔愛〕の理念が掲げられて建国された日本誕生史の抹殺に奔走した。
『井伊家伝記』は「正暦年中(991年~994年)公家藤原共資、倫命により遠江国村櫛の郷に下って居住する」と説明する。この文中にある「倫命」は「人として実行すべき使命(つとめ)」と意味する。
共資は先祖の不比等・房前が歴史の抹殺をはかった行為は倫命に反する大犯罪であると断じて、藤原北家という血を越えて建比良鳥の地上絵は後世まで保存しなければならないと志津城を築いてまもった。この共資の熱き思いがあればこそ、建比良鳥の地上絵は荘園の増加発達の損傷を受けず消滅しなかったのである。
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